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「温かな想いをのせて」 |
愛知県立時習館高等学校 二年 峠田 彩香 |
春の柔らかな日ざしを受けて、ほっくりと開いたふきのとう。田んぼの畦道で、ひっそりと秋風に揺れる野菊たち。青くさいホウレン草。はち切れそうな、真っ赤なトマト……。岡山で農業を営む祖父母から、四季折々の香りに包まれた宅配便が送られて来る。その中に、何も書かれていない真っ白なはがきも一緒に送られて来るようになったのは、いつのことだっただろうか。
「いつも離れて暮らしているけぇなあ。」
小さい頃から聞き慣れた岡山弁と、優しいまなざしで、祖父母は言う。
「学校であったこと、家のこと、なんでもいいから、このはがきに書いて送ってくれぇなあ。おばあちゃんも、頑張って書くけぇ。」
学校から帰って、宿題を済ませ、風呂に入った後、私のはがきタイムが始まる。勉強が相変わらず大変なこと。部活動の卓球でスマッシュが決まり、嬉しかったこと。下校中に見上げた夕焼け空の美しさに、思わず心を奪われたこと……。一日の生活の中で出会った一つひとつの出来事を振り返り、祖父母の顔を思い出しながら、週に二、三度、はがきに向かうのだ。
勉強にも部活にも忙しい毎日から逃げ出して、たまらなく岡山の田舎へ帰りたくなることがある。そんな時に祖母から届く、ただただ優しさに溢れ、時に力強さも伝わってくるはがきが、私に元気を与えてくれる。本当に不思議だ。
私が生まれて間もなく、病気のために両目から光を失ってしまった祖父。それ以後、祖父の目の代わりをしてきた祖母。二人寄り添い、微笑みながら、私のはがきを読んでいる姿が目に浮かぶ。
たった三gのはがき。遠く離れて暮らしている祖父母に、いつまでも元気でいてほしいから、今日もこの小さな一枚に、たくさんの温かい想いを込めよう。 |
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作者の体温が伝わってくるという点で、審査員はこの作品を高く評価しました。おばあちゃんの優しさと、その気持ちに応える作者の交流がすばらしいことと、作品には出てきませんが、気持ちの優しい作者を育てたお父さん・お母さんはどんな人なんだろうというところまで想像が広がっていきました。野菜の描写から始まる書き出しや「たった三gのはがき」といった表現に個性が表れ、作者のいきいきした姿が目に浮かぶ作品です。 |
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